フェデラーを破った男
トロントマスターズシリーズ2回戦で世界ナンバーワンのフェデラーがフランスのシモンに2-6,7-5,6-4で敗れました。これで234週続けてきたフェデラーの世界ナンバーワンの座が危なくなってきています。フェデラーも機械ではなく人間なのです。ウインブルドンでの激闘は世界の多くの人々に物凄い衝撃を残しました。一方では、ウインブルドン6連覇を逃し、絶対に負けてはいけない芝生でナダルに負けた事実を消化しきれていないものがあるのだと思います。フェデラーにはコーチがいません。現在の世界テニス界では異例のことです。『次に向かって気持ちを入替えればいい』と簡単に片付けてしまうのは、世界ナンバーワンの選手に対して失礼だと思います。こういう大きな重圧や葛藤を抱えながら世界ナンバーワンの位置を守り続けているから尊敬されるのだと思います。
ロンドン五輪で金メダルを取るまで現役選手を続けるとフェデラーは公言しています。どのようなモチベーションを持って今年のシーズンを戦うのでしょうか。北京五輪への参加を表明しているフェデラーは自国の世界トップ10選手であるバブリンカと今大会ではダブルスを組んでいます。先にシングルスに負けてダブルスのために大会に残るのはフェデラーにとってほとんどない経験だと思います。どのように気持ちを整理するのでしょうか。人間、フェデラーの踏ん張りどころだと思います。
今大会でフェデラーを破ったギレス・シモンは1984年生まれの23歳です。私はフランスのシェルブールチャレンジャーで当時18歳の彼と対戦したことがあります。自慢にならない過去ですが、結果を振り返ってみたのですが、3-6、7-6(5)、2-6での敗戦でした。身体の線が細くて、足もあまり使わず手打ちのようなショットを打つ何でもない選手でした。当時、まさか彼が5年後に世界ランク20位台まで上がるとは夢にも思いませんでした。同じ大会にはツオンガ、モンフィス、バグダディス、ティプサレビッチも出ていました。彼らも今では世界トップ30入りしています。
あの時代を懐かしく思いました。私がツアー転戦していたのは、グランプリツアー傘下のチャレンジャーレベル、フューチャーズレベルです。野球で言えば3A、2Aというメジャー傘下のレベルです。体育会の大学生で言えば、関東学生の予選回りです。このレベルで戦うの一番難しいのです。上のグランプリレベルを見ると、自分が上の選手に勝つのは厳しいと考えてしまい、同じレベルを見ると、諦めている選手もいてその方向に流されそうにもなります。大会には観客も少なく、多くの人から注目されない環境に身を置いていると、いつの間にか何のためにやっているのか目的を忘れそうになります。どこかで諦めている自分と対峙することになります。
結果的には私はグランプリレベルに上がることは出来ませんでしたが、あの苦しい時に諦めなかったことが、今指導者として活動をしている自分の支えでもあります。ツアー転戦は孤独との戦いでもあり、夜の街に吸い込まれていく誘惑に負けそうな時も多々ありました。世界各国にはネオンが輝く街がありました。もしそのまま誘惑に負けていても結果は同じですから多くの人はばれなかったとも思います。
そんなことを考えていたら、慶應テニス部を卒業してプロ活動をしている松永浩気から『今の自分を支えているのは、坂井さんに言われた、今自分に負けたら後悔する、との言葉です』と言われました。松永浩気は高校時代には無名で、慶應で大きく伸び最後は大学チャンピオンになった男です。そして、大学卒業後、スポンサーがない中、彼の同期が日本のトップ企業に入っていく中、彼は迷いなくプロに転向してツアー転戦しています。周囲でとやかく言う人はたくさんいると思います。そんな男を指導できることを誇りに思います。私は大学卒業後にプロになる気持ちがあったにもかかわらず、安定を求めて就職する道を選んだ人間です。回りには腰が『痛いから』と言い訳で武装してテニスから離れていきました。そしてその後の自分を待ち受けていたのは、言い訳で武装したものの、『なぜあそこでテニスをする道を選べなかったのか』という後悔の念でした。私の後悔や失敗を松永には繰り返して欲しくないと思います。
諦めるのは簡単です。勝負の世界では諦めた人は確実に表舞台から消えていきます。プレッシャーのかかった場面は『うそ発見器』と同じだと思います。普段からプレッシャーのかかった場面を想定していない選手は確実にそのプレッシャーに敗れていきます。そこで、言い訳という武器を使うと周囲の人々には武装することが可能です。しかし、その後もうそ発見器と言い訳という武装の繰り返しの人生となります。これまた過酷な人生だと思います。
フェデラーがここで言い訳という武装をするのかしないのか、どう打開していくのでしょうか。世界ナンバーワンとしての姿勢に注目したいと思います。我々がスポーツから学べること、世界トップから学べるものがあると思います。
以下がフェデラーの試合後のコメントです
"I had some missed opportunities that cost me dearly in the end, so it was a disappointing match today,"
"It's important to stay positive. The hard court season just started. It's the start of, what is it, nine months of hard court? It's not the end of the world, but I wish it could have started better."
以下からフェデラー対シモンがダイジェストでチェックできます
http://en.sevenload.com/shows/ATP-Masters-Series-TV/episodes/hAjlskG-Toronto-Daily-Highlights-23-07-08
以下からフェデラーの大会前のインタビューがチェックできます
http://en.sevenload.com/shows/ATP-Masters-Series-TV/episodes/dtJUAO7-Toronto-Interview-Federer-20-07-08






