2008年2月19日

錦織圭の衝撃

錦織圭のATPツアー優勝は大きな衝撃でした。18歳2ヶ月での優勝。予選上がりからの優勝。日本人では16年振りのATPツアー優勝。世界ランク244位での優勝。プロ転向してから僅か4ヶ月での優勝。フェデラー、ナダルも成し遂げていない偉業です。彼の偉業の裏には多くの人々のサポートがあります。彼の才能を見出した松岡修造氏が主催する修造チャレンジのサポート。盛田正明日本テニス協会会長が私財を投じて設立した盛田正明テニスファンドのサポート。大手マネジメント事務所であるIMGによるサポート等々。彼の周辺は既に準備が整っています。男子プロゴルフの石川遼選手、女子プロゴルフの上田桃子選手も注目を集めるようになってからマネジメント事務所を探していますが、錦織圭はIMGと既にマネジメント契約を結んでいます。ツアーコーチとしてIMGに所属する元プロ選手のグレン・ワイナーが同行し、ツアー転戦にかかる一切の経費をIMGがギャランティーし、スポンサー企業を選定し、IMGが主催する大会の出場枠をフィックスし、様々なサポートを行っています。

錦織圭のフォアハンドのしなやかさは大きな武器です。ジェームス・ブレークとの決勝戦、ファイナルセット1-1デュースで見せたフォアハンドでのスライスエースは圧巻でした。ドロップショットと見せかけてダウンザラインにフォアハンドでのスライスエースを奪ったあのショット。あのしなやかさは一朝一夕にものにマスター出来るものではありません。8歳から10歳といわれるゴールデンエイジにコーディネーショントレーニングを行うことで身に付いていくものです。また、決勝の舞台でも舞い上がらない精神力には眼を見張るものがあります。アメリカの生活に慣れていることも大きな要因です。『決勝戦で対戦したブレークはテレビでしか見たことのない選手』とのコメントは本人の英語によるものです。彼を支えるスタッフはほとんどが外国人です。拠点としてトレーニングしているIMGアカデミーではトミー・ハース、マックス・ミルニーという世界トップ選手と共にトレーニングを行い、ロジャー・フェデラーやラファエル・ナダルからはヒッティングパートナーとして指名されます。世界トップ選手に対して臆するところがありません。彼のテニスはアメリカの伝統的なパワーテニスではなく、南米やスペインの強烈なトップスピンテニスでもなく、柔軟性のあるフェデラーやジョコビッチに近いテニスです。

盛田正明テニスファンドは錦織圭が13歳の時から昨年10月にプロ転向した17歳まで授業料、遠征費用を含めたサポートを行ってきました。そのサポートなくして現在の錦織圭はありません。盛田正明日本テニス協会会長が長年ソニーで重責を担われたこともあり、夢を追うことに対して大きなこだわりを感じます。私もソニー所属のプロ選手として活動した経験がありますが、ソニーの方々からは『ソニーは夢を追う会社です。夢を追う若者をサポートする。夢を追い続けなさい。』と言われてきました。多くの役員の方々の部屋には『夢』と書かれた額が飾られていました。盛田正明テニスファンドにはソニースピリットが流れています。大きな才能を発揮するためにはその大きな才能をサポートするシステムが必要不可欠なのです。

錦織圭と共に同世代でしのぎを削ってきた選手たちは何を思うでしょうか。慶應義塾大学に在籍している喜多文明、富田玄輝は14歳の時に錦織圭と共にフロリダに渡りました。会田翔は2年前に錦織圭に公式戦で勝った経験があります。彼らには錦織圭とは違うオンリーワンの道を究めて欲しいと思います。楽天の田中将大選手がプロで活躍する中、早稲田の斉藤祐樹選手はオンリーワンの道を究めているのだと思います。簡単に言葉では言い表せないものを大学時代に得ているのです。先日、尾車部屋を見学した際、大学出身力士である嘉風関からは朝青龍や白鵬からは感じない懐深い人間性を感じました。人との比較ではなく、自分自身の中のナンバーワンを究めて欲しいと願っています。彼らは自分たちのペースで成長しています。彼らが毎日少しずつ成長していく姿を見守るのはとても楽しいです。彼らはテニスを通じて人間的にも成長しています。

海外の環境から錦織圭が生まれてきましたが、これからは国内から世界に通用する選手を育成するシステムの構築が焦点となります。まずは世界ランク100位以内に入る選手の育成だと思います。アジア各国にはリー、ウドムチョク、ルーという自国から世界トップ100入りを果たした参考にすべき例があります。日本では添田豪がその道をしっかりと歩んでいます。国立科学スポーツセンターを活用することは言わずもがなです。錦織圭の衝撃は日本男子テニスに良い影響を与えていくと思います。

錦織圭と添田豪
ジャパンオープンでの添田豪と錦織圭。現在の日本テニスツートップ


2008年2月 8日

尾車部屋見学

先日の時津風部屋に続いて尾車部屋の朝稽古見学に行ってきました。元琴風の尾車親方が率いる尾車部屋には29歳で小結に昇進した豪風、幕内の嘉風がいます。中央大学、日本体育大学を経由して角界入りしたお2人からは朝稽古後に学生たちに対して質疑応答形式で貴重な話をして頂きました。力士死亡事件や朝青龍の品格が問題視される角界ですが、日本人として忘れてはならないものを改めて教えてもらいました。稽古場の緊張感ある雰囲気。仕送りをしてくれた親に対する感謝の気持ち。何としても上に這い上がろうとする幕下力士達の必死の表情と競争心。言い訳や愚痴を一切なく一心不乱に相撲に取り組む力士達。稽古が終わると楽しく和やかなオンとオフの切り替え。ファンに対する気遣いの気持ち。

尾車部屋の方針は、全ての力士が社会に出ても恥ずかしくない人間性を身につけることだと聞きました。相撲を通じて人間性を身につけること。テニスを通じて人間性を身につけること。我々が目指していることと同じことでした。誰もが相撲やテニスでプロとして活躍できるわけではありません。そして、たとえプロとして活躍しても引退後の人生が待っています。その時に一人の人間として成長しているかどうか。一件意味のないと思える日々の稽古の中に練習の中にしきたりの中にルールの中に何かがあると考えられるかどうか。

豪風関のこの言葉が印象的でした。
『なぜ親が高い授業料を払って大学へ行かせてくれたのか、東京へ出させてくれたのか、それを考えると頑張らない訳にはいかない。私は故郷の人たちの気持ちも背負っている。言い訳や愚痴を言っている選手は結局中途半端で終わる。頭でっかちにならないで無心でやること。全ては気持ち。』

稽古場に人生全てが凝縮されていました。アフリカやインド、パキスタン、ウズベキスタンを遠征した時と同じ気持ちになりました。今の環境に対する感謝の気持ちを持ち続けることが大切です。

尾車部屋,豪風関,嘉風関

尾車部屋,豪風関,嘉風関

尾車部屋を見学した学生と豪風関、嘉風関